災害心理研究所 The Center for Psychological Studies of Disaster

福島の母たち・若者たちの心からの声を発信するプロジェクト

「あっ!このトマトやすい!でも福島県産か。やめよう。」

ペンネーム もち
原発事故当時に居住していた市町村 宮城県宮城郡利府町
避難について 避難経験なし
家族構成 父、母、双子の弟、自分
年齢 20代


 「あっ!このトマトやすい!でも福島県産か。やめよう。」

 これは母が東日本大震災後、私とスーパーで買い物をしているときスーパーでよく発していた言葉だ。当時原子力発電の爆発事故による放射能汚染のニュースが日本中でさわがれていた。母と買い物に行くのが好きだった当時小学生だった私は、よくこの言葉を耳にして胸がチクチクと痛んだ。そして、普段差別や人々の争いを嫌う母がそのような言葉を発することに驚きを隠せなかった。そして私は勇気を出して聞いてみた。

「少しくらい福島のもの食べたって大丈夫なんじゃないの?福島県の人たちかわいそうじゃない?」と。

 すると母はこう言った。「あんたは優しいね。ママも福島が嫌いなわけじゃないし、福島の人たちを応援したいよ。福島の桃大好きだしね。でも今は、やっぱりあんたたちを守りたい。少しでもあんたたちに放射能のことで何かあったらって考えるとどうしても避けちゃうのよ。」その答えを聞いて、私はほっとした。母は変わってしまったわけではなかった。私たちを守ろうと必死になってくれていたんだと気づかされたのだ。

 あの時、母のような思いを抱えて生活して意図はきっとたくさんいたのではないだろうか。情報が錯綜する中必死に情報を集め、家族を守ろうと必死だった人たちがたくさんいたはずだ。だから風評被害を語るにあたって一概に、その地域のものを避けている人が悪いとは言えないのだとその時私は気付いた。その日から、私はニュースやネットをよく見るようになり、放射能汚染のニュースについて自分なりに調べるようになった。すると、膨大な量の」福島に対する誹謗中傷と、怪しい噂の数々があった。ネット上にあふれていた誹謗中傷の言葉にうけた大きなショックはいまだに忘れられない。そして正しい情報知識を身に着けることが非常に重要で、根拠のない情報に踊らされて過度に反応することはその地域の人たちを傷つけるだけでなく自分自身の生活も崩してしまう危険性があると感じた。

 この経験を通して、災害が起こった際、私たちが重要視しないといけないことは、自分から情報、知識を得る努力をすることであると私は考える。人々は十分な知識がないが故、目の前に流れてくる情報をうのみにし、その情報に惑わされてしまう。そして、他者を傷つけるような行動をとることもある。誰だって幸せな日常を送りたいはずで傷つけあう事なんて本来望んでいないはずだ。根拠のない差別、争いをなくすためにも、災害後の心と地域の復興を促進するためにも、一人ひとりが正しい知識を得て行動を起こしていくこと、日々暮らしていくことが必要なのだ。しかし情報が毎日無数に流れている情報過多社会においてこれは非常に難しいかもしれない。それでも、自分から知ろうとする姿勢、関心を持つだけで絶対に自分を守る何かを得ることができるのではないだろうか。自分を守るのは自分しかいないのだ。

 災害時に、人々が傷つけあうことなく手を取り合って復興していく社会が実現してほしいと私は願う。

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